実は、エマには自由にできるお金がない。
王族の婚約者には王室費が割り当てられているが、そのお金はレオナールの許しがなければ勝手に使えないのだ。 エマを使用人用の離れに閉じ込めて冷遇するレオナールが、贈り物を買うお金など渡してくれるはずがなかった。 「エマ様が贈り物をされることも、あの男の耳に入ると厄介ですからね。お気持ちだけの、目立たない、小さなものがよろしいかと」 「小さいものかぁ」 「そうですわ。エマ様は『聖樹』ですから、祈りの言葉などはいかがですか? 『聖樹』のお守りだと言ってお渡しすれば、あちらも受け取って下さるでしょう」 『聖樹』は神殿に入り、神官と同じように過ごす。毎日身を清め、礼拝と祈りを欠かさずに過ごしてきたエマは、神官同様に、神の加護を受けた存在として扱われる。 親しい人や世話になった方へ、祝福や祈りの詩を贈るのは貴族にとって普通のことだ。『聖樹』が贈るものは特に喜ばれるので、頼まれて詩を書いたことは何度もある。 「僕の書いた詩で、喜んで下さるかな?」 「帝国にも似たような習慣があると聞きます。『聖樹』のお守りですから、きっと喜んで下さいますよ」 ナタリナは励ますように、笑顔を向ける。 詩を書いて渡すくらいなら、もしレオナールに見つかってもうるさく言われることはないだろう。 「じゃあ、祝福の詩にする。ナタリナ、紙とペンを出して」 「いいえ、エマ様。今宵はもうお休み下さいませ」 「でも、ちょっとだけ」 「今日は朝からずっと働き通しで、お疲れになったでしょう。明日も朝が早いですから、お休みになって下さい」 目をつり上げ、怖い顔で睨まれては、エマも降参するしかない。 大人しくベッドに入って横になった。 「ナタリナも、早く休んでね」 「ええ」 ナタリナが毛布を肩までかけて、優しく背中を撫でた。 エマが眠るまで、側にいてくれるのだ。 横になると、体がズシンと重たく感じる。 ナタリナの言うとおり、ずっと働きづめだったからだ実は、エマには自由にできるお金がない。 王族の婚約者には王室費が割り当てられているが、そのお金はレオナールの許しがなければ勝手に使えないのだ。 エマを使用人用の離れに閉じ込めて冷遇するレオナールが、贈り物を買うお金など渡してくれるはずがなかった。 「エマ様が贈り物をされることも、あの男の耳に入ると厄介ですからね。お気持ちだけの、目立たない、小さなものがよろしいかと」 「小さいものかぁ」 「そうですわ。エマ様は『聖樹』ですから、祈りの言葉などはいかがですか? 『聖樹』のお守りだと言ってお渡しすれば、あちらも受け取って下さるでしょう」 『聖樹』は神殿に入り、神官と同じように過ごす。毎日身を清め、礼拝と祈りを欠かさずに過ごしてきたエマは、神官同様に、神の加護を受けた存在として扱われる。 親しい人や世話になった方へ、祝福や祈りの詩を贈るのは貴族にとって普通のことだ。『聖樹』が贈るものは特に喜ばれるので、頼まれて詩を書いたことは何度もある。 「僕の書いた詩で、喜んで下さるかな?」 「帝国にも似たような習慣があると聞きます。『聖樹』のお守りですから、きっと喜んで下さいますよ」 ナタリナは励ますように、笑顔を向ける。 詩を書いて渡すくらいなら、もしレオナールに見つかってもうるさく言われることはないだろう。 「じゃあ、祝福の詩にする。ナタリナ、紙とペンを出して」 「いいえ、エマ様。今宵はもうお休み下さいませ」 「でも、ちょっとだけ」 「今日は朝からずっと働き通しで、お疲れになったでしょう。明日も朝が早いですから、お休みになって下さい」 目をつり上げ、怖い顔で睨まれては、エマも降参するしかない。 大人しくベッドに入って横になった。 「ナタリナも、早く休んでね」 「ええ」 ナタリナが毛布を肩までかけて、優しく背中を撫でた。 エマが眠るまで、側にいてくれるのだ。 横になると、体がズシンと重たく感じる。 ナタリナの言うとおり、ずっと働きづめだったからだ
ルシアンの言葉に、おずおずと尋ねる。 「本当ですか?」 「ええ。薔薇を愛でても、罪にはならないでしょう?」 「はい……でも、」 「エマ。私は、可憐な花びらに触れただけです。貴方は、私に愛でられた薔薇」 囁かれる甘い声に、エマの心が震えた。 今まで口説かれたことのないエマは、すっかり胸をときめかせていた。 (僕を、薔薇だなんて) 戯れの言葉だと思いながらも、ルシアンに見惚れてしまう。 「もちろん、口外はいたしません。貴方の心を脅かすのは、私の本意ではありませんから」 ルシアンの言葉にホッとした。 「何も心配はいりません」 ルシアンは優しい声でそう告げると、エマの手を取り、左手の甲に恭しくキスをした。 「る、ルシアン様っ」 「私の、美しい薔薇」 「ぁっ」 煌めくような紅い瞳に見つめられ、鼓動が跳ねた。 心臓がドキドキと早鐘を打ち、甘い台詞に心が蕩けてしまうようだ。 「今宵はこれで失礼します。また、お会いしましょう」 ルシアンは優雅に微笑みを浮かべ、身を翻した。 遠ざかる背中を見つめながら、ドキドキとうるさく鳴る胸に手を当てる。 「ルシアン様……っ」 もう届かないと知りながら、愛しい名を囁いた。 薔薇に囲まれたその場所には、エマだけが残される。 まるで夢のような出来事に、エマは月を見上げた。 冴え渡る月を思わせる、冷艶な美しさは、エマの心を捉えて離さない。 しばらく立ち尽くしていると、見慣れた姿が飛び込んできた。 「エマ様!」 「ナタリナ?」 身構えていたエマは、肩の力を抜く。 ナタリナはエマの元へ駆け寄り、安堵の表情を浮かべた。 「エマ様、遅くなりまして、申し訳ございません」 「謝らないで。僕は大丈夫だから」 「あら? 熱が落ちつかれたようですね」 「うん。ナタリナこそ、大丈夫? すごい汗だけど」 「ああ
「ひぁぁんッ、ぁぁっ、ぁぅッ!」 (アァッ! き、きもちいいッ……きもちい、……もっとっ) 雄を扱かれ、蕾におさまった静香石をグリグリと弄られる。 エマは昂ぶりと蕾を同時に攻められ、身悶え、泣きながら果てた。 「ひぁぁぁんッ……ぁぁッ」 躰をピクピクと震わせ、惚けたように空を見る。 浅く息を繰り返しながら、躰の熱が引いていることに気付いた。 「ぁっ、ぼく……?」 あれほどジクジクと煽り立てていた疼きも、静まっている。 蕾を締めつければ、静香石を感じるが、少し違和感があるだけだ。 「エマ、大丈夫ですか?」 「あっ……」 声を掛けられてハッと我に返る。 月光を背にしたルシアンが、赤い瞳を細めてエマを窺う。 「薬を飲めば、落ちつきますよ」 「くすり……」 薬は、手元にない。 ナタリナが抑制剤を取りに行ってくれてるけど、まだ戻ってくる気配はなかった。 「薬、なくて……」 「私が持っています。さあ、起こしますよ」 ルシアンはそう言うと、エマの背に手を添えて、上体を起こしてくれた。 そればかりか、背後から抱きしめるようにして、体を支えてくれる。 「ぁっ、ルシアン様っ」 「エマ。口を開けて」 凜とした声が鼓膜を震わせる。 ルシアンは右手に、小さな小瓶を持っていた。素早く蓋を回し空け、エマの唇へそっと傾ける。 「苦いかもしれませんが、すぐ楽になります」 「んっ」 とろりとした液体が口に入ってくる。 苦味はあるが、コクッと飲み込んだ。 小瓶の中身をすべて飲み干すと、ルシアンが頬を撫でた。 「よく飲めましたね」 「ぁ、……っ」 ぽぅっと頬が赤くなる。 後ろから逞しい腕に抱きしめられ、ルシアンのぬくもりを感じながら、甘い香りを胸に吸い込んだ。 濃厚な香りはなりを潜め、今は薔薇のいい香りがあたりを包んでいる。
顔を覆いたいほど恥ずかしかったが、スッキリしたはずの躰が、また疼き出す。 蕾におさめた静香石は、熱を持ったままだ。 「ぁ……んっ」 エマは目をつむり、その疼きに耐えようとしたが、ルシアンに見抜かれた。 「もしかして、これが苦しいですか?」 「ぁんっ」 ルシアンの指が蕾に触れ、ぴくっと震える。 そこで初めて、ルシアンが今までいちども、蕾に触れずにいたことに気付いた。 「ぁ、ルシアン様……っ」 「静香石でしょう?」 「っ!」 かぁ、と頬が熱くなる。 どうして気付かれたのかと思ったが、秘部を見下ろせば、蕾から短い紐が伸びている。 中に埋めた静香石を取り出すときに必要な紐だ。 「香りがまだ強いですね。正常に動いているか、確認しましょう」 ルシアンは優しく言い、エマの蕾に埋もれた静香石の紐を掴む。 「ぁ、る、ルシアン様っ」 「力を抜いて」 「ぁぁっ」 甘い声で囁かれると、素直に従ってしまう。 ルシアンが紐を引っ張ると、ギュッと蕾が締まる。 クン、と引っ張る力に、勝手に抵抗するのだ。 「んっ、ぅぅ……はぁ」 エマは深く息を吐いて、躰の力を抜く。 その隙に、ルシアンがグッと紐を引っ張った。 「ひゃぁぁんッ!」 ズルッと丸い球体が蕾から抜け落ちる。その刺激にさえ感じて、ビクビクと震えた。 「これが、静香石ですか」 ルシアンが感心したように呟く。 「?」 「私が知っている物は、もっと簡単な構造をしているのですが、これはかなり高価な代物のようですね」 「ぁっ、それは、ダリウ殿下が……」 「王室所有の代物でしたか」 納得したように頷くが、ルシアンの手に取り出された静香石は、愛液に濡れて、月光にイヤらしく光っている。 エマはいたたまれなくなり、今度こそ顔を覆った。 「も、申し訳ありませんっ。そのように、はしたない物をっ」
「ひゃぁぁんっ!」 胸の飾りに触れられ、甘い声が上がる。 自分で弄ったこともなく、意識さえしていない場所だったのに。 軽く摘まれ、こね回されると、エマは頭を振って喘いだ。 「ぁんっ、ぁぁっ、ひゃぁぁッ」 「感度がいいですね」 「アァァッ! んぁっ……ひゃうっ」 スリ、と乳首を擦られるだけで、腰が砕ける。 こんな快感は初めてだった。 知らぬ間に昂ぶりが弾けて、蕾からは愛液がトプリとあふれる。 (ぁぁッ……き、気持ちいい……ッ) エマは本能のままに腰を揺らし、その先をねだった。 愛されたことのない躰は、甘い快楽を与えるルシアンに縋り付こうとしている。 頭の片隅に残る理性が、ダメだと警鐘を鳴らすのに、口から出たのは違う言葉だ。 「ァァッ……んぅ……もっとッ」 「ここがいいですか?」 「はぁぁんっ! ぁぁっ、そこぉ……!」 「ここも勃つようになりましたね」 ルシアンが嬉しそうな声で、エマの乳首を指で弾く。 「ひゃぁぁっ!」 ビリッと痺れる快楽に、背をのけぞらせる。 あまりの快感に口端から唾液がこぼれ、昂ぶりは勢いよく固さを増す。 (熱いッ……ぁ、頭が、おかしくなりそうっ) 「こんなに素直で感じやすい乳首は、初めてです」 うっとりと囁く声に、ズクンと腰が疼いた。 いまや、ルシアンの触れるところすべてに、感じてしまう。 ピクピクと躰が跳ね、喘ぎながら、涙をこぼした。 「ひゃんッ、ぁぅ……っ、ぁぁっ」 「可愛いですね」 甘い囁きに、悦びで雄が震えた。 (ルシアン様が、褒めて下さったっ) 嬉しくて、つい腰を揺らしてしまう。 ぴゅるっと白濁を放つ半身は、すでに何度も達して、勢いが弱まっている。 「こんなに蜜をこぼして……」 ルシアンはエマの上半身から手を離し、今度はエマの足を広げて、その太ももを撫でた。 「あぁぁん
西殿へ戻るには、あの大広間を通らなくてはいけない。 集まっているのは王族や皇族、それに各国の要人や外交官ばかりだ。その半数は、アルファだろう。 オメガがフェロモンを放ちながら、アルファの前に出れば、最悪、悲劇が起きる。 どうにか、この場で鎮めるしかなかった。 「エマ様。ひとまず、お体を落ちつかせましょう。ここをまっすぐ進めば、薔薇の東屋があります。そのさらに奥でしたら、誰も近づかないはずです」 「うん」 ナタリナに支えられながら、巡回の騎士を避け、庭園の奥へと進んでいく。 エマには、どこをどう進んだか分からないが、しばらくして、薔薇の生け垣に囲まれた小さな空間に出た。 柔らかな芝生に、崩れ落ちる。 「エマ様っ」 「ぁ、だ、だいじょうぶ」 芝生にうずくまりながら、エマは熱い息を零した。 静香石は大人しくなったが、体が熱い。 ナタリナの言うとおり、発情(ヒート)の症状によく似ていた。 汗がにじみ、熱と疼きで体が震える。 「ああ、エマ様! すぐに抑制剤を取ってまりますから、もうしばらくご辛抱を!」 「んっ、ぁぁ、ナタリナ、」 「すぐに戻って参ります。なるべくお声を落として、静かにお待ちください」 ナタリナは焦った口調でそう言い、エマの体にストールをかけた。 そして、すぐに来た道に戻っていく。 夜空の月は、あと数日で満ちる。そのためか、月の光は驚くほど明るく、王宮の夜を照らしていた。 エマが周りの様子を窺うと、そこは薔薇の生け垣に囲まれた、小さな空間だった。 入り口は一カ所しかないようで、人目を避けて隠れるのに絶好の場所だ。 咲き誇る薔薇は色とりどりに美しく、昼間であれば、芳しい香りを胸いっぱいに吸い込んで、幸せな気持ちになれるだろう。 しかしエマは、汗がしたたり落ちるほどの熱に、息を乱しながら耐えた。だんだんと強くなる疼きに、エマの半身は緩く勃ち上がる。 「ぁぁっ、ん、んんっ」 エマは無意識